【実例】所有者と連絡が取れない古い建物を解体して土地を使う方法を弁護士が解説

「地主さんとは話がついて、土地は買える。ところが土地の上には、何十年も放置された古い建物が建っていて、持ち主が誰なのか、どこにいるのかもわからない」。
土地の仕入れをしている不動産会社の方から、時々いただくご相談です。
土地と建物は、法律上は別々の不動産です。土地を買っても、その上に建っている他人の建物が自分のものになるわけではありません。
かといって、所有者のわからない建物を勝手に取り壊すこともできません。土地は手に入ったのに、建物のせいで事業が始められないという状態になります。
それでも、建物の所有者から地主に地代が払われていないのであれば、訴訟によって建物を収去させ、土地を使えるようにする道があります。建物の所有者の所在がわからなくても、手続きは進められます。
この記事では、土地を買って事業を始めたいのに、所有者と連絡が取れない古い建物のせいで着工できずにいる不動産会社の方に向けて、最初に確認すべきこと、建物の所有者の調べ方、そして訴訟から解体までの流れについて、私が実際に担当した案件をもとに解説します。
先に結論をお伝えすると、ポイントは次の3つです。
▼この記事のポイント
- 土地を買っても、土地の上に建っている他人の建物は自分のものになりません。
- 最初に確認すべきことは、建物の所有者から地主に地代が払われているかどうかです。
- 地代が払われていなければ、権限なく建っている建物として訴訟で収去を求めることができます。
- 建物の所有者の所在がわからなくても、公示送達という制度を使えば訴訟を進めることができます。
- 判決を取れば、強制執行によって建物を解体し、土地を使えるようになります。
土地の上に他人の古い建物があるときに実際に起きていること
「土地の所有者とは話がついたのに、上に建っている建物の所有者がわからない」というご相談をされるのは、土地仕入れをしている不動産会社の方です。
エンドユーザーの方から「建物の所有者がわからない土地を買いたい」というご相談を受けることは、ほとんどありません。そのような土地を、個人の方が自宅用に買おうとすることはまずないからです。
まず押さえていただきたいのは、土地と建物の所有者は、必ずしも同じとは限らないということです。
土地だけの売買契約をしても、所有者が別の建物まで所有権を取得することはできません。土地は自分のものになっても、建物は他人のもののままです。
そして、誰も住んでいない廃屋のように見えても、勝手に壊せば建造物損壊罪が成立します。「どうせ誰も使っていない」という理由で解体することはできません。
【実例】土地を仕入れてアパートを建てたいが他人の建物が建っていた
ここからは、私が実際に担当した案件をもとにお話しします。ご依頼者や物件が特定されないよう、一部の情報は変更しています。
相談者の立場と土地・建物の状況
ご相談者は、土地仕入れをしている大手の住宅会社でした。地主さんから土地を仕入れて、その上にアパートを建てたいという計画をお持ちでした。
地主さんとの話はまとまっていたのですが、土地の上には、所有者が別の建物が建っていました。
場所は都内の住宅地で、物件としては良い立地です。ところが、建物は長年放置され、近所でも知られたゴミ屋敷のような状態で、敷地には木が生い茂っていました。
建物の所有者とは連絡が取れず、生きているのか亡くなっているのかも確認できない状況でした。
ご相談時点の状況
ご相談の内容は、「この土地を買った後に、建物を収去できるか」というものでした。
大手の会社であっても、建物の所有者がわからない案件においては、どこから手をつければよいかはわかりにくいものです。ご相談者は特に何も動かず、まず弁護士に相談が必要だと判断して来られました。
最初に確認するのは建物の所有者から地代が払われているか
土地の上に他人の建物が建っている案件で、私が最初に確認するのは一点だけです。建物の所有者から土地の所有者(地主)に対して、地代が払われているかどうかです。
ここで、その後の進め方がまったく異なります。
地代が払われていれば借地権の問題になる
建物の所有者が地主に地代などを払っているのであれば、建物の所有者は借地権を主張してくる可能性があります。
借地権がある建物を収去させるのは容易ではなく、立退きの交渉や立退料の問題に発展します。
地代のやり取りがなければ訴訟で収去を求められる
逆に、お金のやり取りがまったくないのであれば、借地権は成立しません。その建物は権限なく土地の上に建っていることになり、訴訟によって建物を収去させることができます。
今回のように、50年、60年と長年放置されている建物であれば、地代が払われていないケースの方が圧倒的に多いです。
ご相談の際には、次の点を地主さんに確認していただくようお願いしています。
- 建物の所有者から地代が払われているか
- 過去に払われていて、いきなり止まったのであれば、それがいつなのか
建物の所有者を固定資産税の課税台帳で調べる
建物の所有者がわからない場合、所有者の住所を直接調べることはできません。そこで、固定資産税の課税台帳に記載されている建物の所有者を調べる必要があります。
課税台帳を誰が閲覧できるかという問題については、基本的には建物の所有者やその相続人しか閲覧できません。
ただし、土地の所有者が、自分の土地に権限なく建っている建物の所有者に対して建物収去土地明渡訴訟を提起する場合には、土地所有者でも建物の課税台帳を見ることができるようです。
課税台帳で所有者の名前と住所がわかれば、そこから住民票や戸籍をたどって、現在の所在や、亡くなっていれば相続人を調べていきます。
調査の手順は、別記事「【実例】登記簿の住所が古く所有者と連絡が取れない土地を買う方法を弁護士が解説」で詳しく説明しています。
建物の所有者の所在がわからなくても訴訟は進められる
地代が払われていないことが確認でき、建物の所有者の所在がわからない場合、手続きは次の3段階で進みます。
- ①建物収去土地明渡請求訴訟を提起する
- ②住所がわからなければ公示送達で訴訟を進める
- ③判決を取って強制執行で解体する
①建物収去土地明渡請求訴訟を提起する
地代が払われておらず、建物が権限なく建っていることが確認できれば、建物の所有者に対して建物収去土地明渡請求訴訟を提起します。建物を取り壊して土地を明け渡すことを求める訴訟です。
②住所がわからなければ公示送達で訴訟を進める
訴訟は、本来、相手に訴状を送達しなければ始まりません。しかし、建物所有者の住所がどうしてもわからない場合には、公示送達という制度があります。
公示送達とは、訴状を裁判所の掲示板に2週間掲示すれば、送達したものとして扱われる制度です。これを使えば、相手の所在がわからなくても訴訟を進めることができます。
公示送達で訴訟を進めると、相手が出てこないまま審理が進みます。通常の訴訟で本人が欠席している場面と同じように、比較的時間をかけずに判決を得ることができます。
③判決を取って強制執行で解体する
判決が出ても、相手が自分で建物を取り壊すことは期待できません。そこで、判決に基づいて強制執行を申し立て、執行業者によって建物を解体します。
ここまで進めば、土地を更地にして事業を始めることができます。
所有者の死亡が確認できた場合は相続財産清算人が必要になる
注意していただきたいのは、建物の所有者が亡くなっていることが確認でき、かつ相続人がわからない場合です。この場合は、相続財産清算人(従来の相続財産管理人)の選任を裁判所に申し立て、その清算人に対して解体を求めることになります。
この手続きは時間がかかり、1年以上かかることも珍しくありません。
なお、建物の所有者も相続人もまったくわからない場合には、所有者不明建物管理人を選任する方法もあります。ただ、地代が払われていない建物であれば、訴訟で解決する方が早いというのが私の実感です。
公示送達による訴訟から強制執行での解体まで
結論からお伝えすると、先ほどの案件は、建物の所有者を行方不明の生存者として扱い、公示送達を使った訴訟で判決を取り、強制執行で建物を解体しました。ここからは、その経緯をお話しします。
建物所有者の生死も所在も確認できなかった
この案件で障壁になったのは、建物所有者の生死も所在も確認できなかったことです。調査をしても、建物所有者の死亡までは確認できませんでした。
裏を返せば、死亡が確認できない以上、相続財産清算人の手続きは必要ありません。
そこで、建物所有者を行方不明の生存者として扱い、建物収去土地明渡請求訴訟を提起しました。建物所有者の住所は最終的にわからなかったため、公示送達を使って訴訟を進めています。
公示送達で判決を取り強制執行で解体した
相手方からの反論はなく、判決を取り、強制執行によって建物を解体しました。
敷地に生い茂っていた木なども撤去し、ご相談者は予定どおりアパートの建築に進むことができました。
地代が払われていなければ正攻法で解決できる
この事例からお伝えしたいのは、建物の所有者と連絡が取れなくても、地代が払われていないことさえ確認できれば、訴訟と公示送達、強制執行という正攻法で解決できるということです。
「所有者がわからないから何もできない」ということはありません。
所有者と連絡が取れない建物を解体できるまでの期間と費用の目安
所有者と連絡が取れない建物の解体に要する期間は一概には言えませんが、所有者の調査、訴訟、強制執行までで、10か月程度はかかると考えておいてください。
費用については、強制執行の費用がかなり高額になります。
過去に扱った案件では、古い家の解体に加えて敷地の草木も撤去する必要があり、執行業者に支払う費用だけで600万円程度かかりました(弁護士費用は別です)。
解体の強制執行にかかる費用は、申立人が一時的に負担します。相手方に対してその負担分を請求する制度はありますが、所有者が行方不明になっている以上、実際に回収するのは現実的ではありません。
事業計画を立てる際には、この費用を見込んでおく必要があります。
土地の売買契約を結ぶ前に地代の支払状況を確認する
最初にやるべきことは、建物の所有者から地主に地代が払われているかどうかを確認することです。過去に払われていて、いきなり払われなくなったのであれば、それがいつなのかも含めて、地主さんから聞き取っておいてください。
この一点で、借地権の問題になるのか、訴訟で収去できるのかが決まります。
そのうえで、ご相談の際には次の資料を持ってきていただければと思います。
- 土地の登記事項証明書(登記簿謄本)、公図
- 建物の写真
- わかる範囲で建物の来歴(誰が建てたのか、いつから放置されているのか)
土地の売買契約を結ぶ前にご相談いただければ、建物の処理にかかる期間と費用を見込んだうえで、仕入れの判断をしていただけます。
所有者と連絡が取れない建物が建つ土地の問題はたきざわ法律事務所にご相談ください
所有者と連絡が取れない建物の処理は、所有者の調査、訴訟、強制執行までを一つの流れとして進める必要があります。
当事務所がお役に立てるのは次の3点です。
- 建物所有者の調査から訴訟・公示送達・強制執行まで一貫して対応
- 地代の有無と借地権の成否を見極めた最短ルートの選択
- 不動産会社の仕入れ判断に合わせた期間と費用の見通し
建物所有者の調査から訴訟・公示送達・強制執行まで一貫して対応
所有者の調査、訴訟、強制執行は、それぞれ別の専門家に依頼することもできます。しかし、調査の結果によって訴訟の相手方や進め方が変わるため、分けて進めると途中で手続きが止まりがちです。
当事務所では、課税台帳や戸籍による所有者の調査から、建物収去土地明渡請求訴訟の提起、公示送達の申立て、判決後の強制執行まで、窓口を分けずに対応します。
地代の有無と借地権の成否を見極めた最短ルートの選択
先ほどお話ししたように、地代が払われているかどうかで、借地権の問題になるのか、訴訟で収去できるのかが分かれます。ここを見誤ると、不要な手続きに時間と費用をかけることになります。
当事務所は、不動産分野に特化しています。借地権の成否を早い段階で見極め、相続財産清算人や所有者不明建物管理人といった時間のかかる手続きが本当に必要かどうかを含めて、最短のルートをご提案します。
不動産会社の仕入れ判断に合わせた期間と費用の見通し
不動産会社にとって重要なのは、「解体までに何か月かかり、いくらかかるのか」が仕入れの判断の前にわかることです。強制執行の費用は数百万円に上ることがあり、見込んでいないと事業の採算が崩れます。
当事務所では、ご相談の段階で、解体までの期間と強制執行を含めた費用の見通しをお示しし、仕入れの判断に使っていただける形で進めます。
所有者と連絡が取れない建物についてよくある質問
最後に、所有者と連絡が取れない古い建物が建つ土地について、ご相談の際によくいただく質問にお答えします。
未登記の建物は誰のものになりますか?土地を買えば自分のものになりますか?
土地を買っただけでは、建物は自分のものになりません。
土地と建物の所有者は同じとは限らず、土地の売買契約だけでは、他人の建物の所有権は取得できません。
誰も住んでいない廃屋でも勝手に壊すと罪になりますか?
建造物損壊罪が成立します。
誰も使っていないように見えても、他人の建物を無断で壊すことはできません。
建物の所有者の所在がわからなくても訴訟はできますか?
公示送達という制度を使えば、訴訟はできます。
住所がわからない場合は、訴状を裁判所の掲示板に2週間掲示することで送達したものと扱われます。相手の所在がわからなくても、訴訟を進めて判決を得ることができます。
建物の所有者がわからない場合はどのくらいの期間と費用で解体まで進められますか?
期間は10か月程度、費用は強制執行の部分がかなり高額になります。
一概には言えませんが、所有者調査、訴訟、強制執行で10か月程度はかかります。過去の案件では、古い家の解体と草木の撤去で執行業者の費用が600万円程度かかりました。
解体費用は誰が負担するのですか?
解体の強制執行の費用は、申立人が一時的に負担します。
相手方にその負担分を請求することはできますが、所有者が不明になっているため、実際の回収は現実的ではありません。
まとめ
土地の上に所有者と連絡が取れない古い建物があっても、正しい手順を踏めば解体して土地を使うことができます。この記事でお話しした内容を振り返ります。
- 土地と建物は別の不動産で、土地を買っても他人の建物は自分のものにならず、勝手に壊せば建造物損壊罪になる
- 最初に確認するのは地代の有無。払われていれば借地権の問題、払われていなければ権限のない建物として訴訟で収去を求められる
- 建物の所有者の所在がわからなくても、公示送達で訴訟を進め、判決を取って強制執行で解体できる
- 所有者の死亡が確認でき相続人がわからない場合は、相続財産清算人の手続きが必要になり1年以上かかる
- 期間は10か月程度、強制執行の費用は数百万円に上ることがあり、申立人が一時的に負担する
今回ご紹介した案件では、建物所有者の生死も所在もわからない状態から、公示送達を使った訴訟と強制執行によって建物を解体し、予定どおりアパートの建築に進むことができました。
鍵になるのは、地代が払われているかどうかの確認と、強制執行まで含めた期間・費用の見通しです。この2つがわかっていれば、建物付きの土地でも、仕入れるかどうかを冷静に判断できます。
土地の売買契約を結ぶ前に、地主さんから地代の状況を聞き取ったうえでご相談ください。所有者と連絡が取れない建物が建つ土地の問題でお困りの方は、たきざわ法律事務所にご相談ください。












